コラム

採用募集を行う際に留意したいポイント

2021.10.21

年間を通して中途採用を行っている企業は多いと思いますが、求人募集の際に、自社の労働条件をきちんと明示していますか?

企業が労働者の募集を行うときには、職業安定法等において一定の労働条件を明示することが義務付けられています。

職業安定法における最低限明示しなければならない労働条件について、まず確認しておきましょう。

参考出所:厚生労働省パンレットをもとに筆者で一部アレンジ

 

なお、職業安定法の一部が改正されており、2020年4月から「就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項」の明示義務が課されています。ぜひこの点についても記載を加えるようにしましょう。

「屋内禁煙」や、「屋内原則禁煙」の場合であっても、喫煙専用室を設置している場合などは、その内容も記載するようにします。

 

明示すべき労働条件は多数あります。求人票のスペースが足りないなどやむを得ない場合には、「詳細は面談の時にお伝えします」などと書いた上で、労働条件の一部を別途明示することも可能とされています。

新聞やホームページ上においても、スペースが限られていることは珍しくありません。その際は、ひと言入れておきたいところです。(ハローワークにおける求人票にはすべての条項が漏れなく記載されています。)

 

ただし、一部を省略している場合は、原則として初回の面接等、求職者と最初に接触する時点までに、すべての労働条件を明示すべきとされています。この点は、くれぐれも注意しましょう。

 

特に、時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度(いわゆる固定残業代)を採用している場合は、本来の基本給と手当の額、それが何時間分の時間外手当として支給されているか、必ず明記しましょう。さらに、一定の基準時間を超える時間外労働については、別途割増賃金を支払うことも記載します。

この点は、トラブルの多いところでもあるので、特に気を付けたい点です。

 

労働条件を変更する場合

当初明示した労働条件が変わる場合も明示が必要になります。

その際は、変更内容について、求職者が適切に理解できるような方法で明示しなければならないことになっています。

 

例えば、当初の基本給を25万円~30万円としていたところ、最終的に28万円に決定した場合は、前後の内容を対照できるようにするか、変更点に下線等を引いてわかりやすく明示しましょう。

内定を出す場合、原則として学校卒業見込者等に対しては職業安定法に基づく労働条件の明示を書面により行う必要があるとされています。

 

労働契約を締結する際の労働条件明示

労働契約の締結時には、労働基準法に基づき、書面により労働条件を通知することが使用者には義務付けられています。以下を参照ください。

書面で明示しなければならない事項

(1) 労働契約の期間
(2) 就業の場所・従事する業務の内容
(3) 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項
(4) 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
(5) 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
※書面交付は、労働者が希望した場合でかつ、出力して書面を作成できる場合はFAX・メール・SNS等の電子媒体での明示も可

口頭の明示でもよい事項

(6)  昇給に関する事項
(7)  退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
(8)  臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
(9)  労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
(10) 安全・衛生に関する事項
(11) 職業訓練に関する事項
(12) 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
(13) 表彰、制裁に関する事項
(14) 休職に関する事項

上記(1)~(6)は必ず明示しなければならない事項で、(7)~(14)は制度を設ける場合に明示しなければならない事項です。

就業規則に当該労働者に適用される労働条件が具体的に規定されており、労働契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。

中途採用の場合、面接してから入社まで、あまり時間がない場合もあるでしょう。少なくとも入社日までには「労働条件通知書」などの書面を交付する必要があります。

 

そもそも労働契約とは、「労働者が使用者の指揮命令に従って働くことを約束し、使用者がその報酬として賃金を支払うことを約束する契約」をいいます(労働契約法第6条)。

そして労働契約は、「労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきもの」とされています(労働契約法第3条1項)。つまり、本来は労使対等が基本原則にある、ということです。

 

労働条件については、後々に誤解のないよう、しっかりと説明して必要な書面を準備するようにしましょう。

労務管理をしっかりと行っておくことで、無用なトラブルを未然に防ぐばかりでなく、信頼関係構築のカギにもつながります。

 

人事労務コンサルタント/社会保険労務士

佐佐木 由美子

 

※ この投稿内容は、発行日時点において明らかとなっている法律内容に基づき記載しています