コラム

不妊治療を続けながら働ける職場づくりに向けて

2021.08.20



近年、晩婚化等を背景に不妊治療を受ける夫婦は約 5.5 組に1組となっている一方、厚生労働省が平成 29 年度に実施した調査によれば、不妊治療経験者のうち 16%(男女計(女性は 23%))の方が仕事と両立できずに離職するなど、不妊治療と仕事の両立支援は社会的な課題となっています。

人事院は、国家公務員が不妊治療のために特別休暇制度を新設すると発表。2022年から年5日の有給休暇をとれるようにし、頻繁に通院する必要がある治療なら最大10日間認められるようになります

今、さまざまな企業で、社員が不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりに取り組む動きが広がりつつあります。 

不妊治療と仕事の両立が困難な理由



不妊治療と仕事の両立を困難としている要因として、不妊治療を受けるご本人にとっては、通院回数が多いことや不妊治療を受ける精神面での負担が大きいこと等の声があるとともに、そもそも不妊や不妊治療についての認識が職場内であまり浸透していないことも背景にあると考えられます。

不妊治療に要する通院日数の目安は、女性に大きな負担がかかっており、一般不妊治療で診療1回1~2時間程度の通院が、月経周期ごとに2日~6日(男性は0~半日、手術を伴う場合は1日)と言われます。

生殖補助医療となると、女性の場合は診療時間1回1~3時間程度の通院が4日~10日、加えて診療時間1回あたり半日~1日程度の通院が1日~2日、月経周期ごとに必要になると言われています(男性は0~半日、手術を伴う場合は1日)。

これはあくまでも目安であり、医師の診断、個人の状況や体調等により増減する場合があります。

こうした治療について、周囲が無理解な状況であると、治療との両立が難しくなります。 

 

不妊治療と仕事の両立支援の取組みステップ



企業が、社員の不妊治療と仕事の両立支援の取組を行うには、以下のステップをご参照ください。

ステップ1:取組体制の整備

主導する部門や担当者等を決定し、社内の要請や他社の対応について情報収集を行う。

ステップ2:社員の不妊治療と仕事の両立に関する実態把握

チェックリストやアンケートを活用したり、社員からのヒアリングを行ったりして社内の実態を把握する。

ステップ3:制度設計・取組の決定

ステップ2の実態把握を踏まえて、各企業の実態に応じた取組を検討し、制度設計を行う。

ステップ4:運用

制度の周知徹底。あわせて、制度の利用がしやすく、不妊治療に対し理解のある職場風土づくりのためや不妊や不妊治療を理由としたハラスメントが生じることのないような意識啓発を行う。

※本人の意思に反して職場全体に知れ渡ってしまうことなどが起こらないよう、プライバシーの保護に配慮することが重要です

ステップ5:見直し

制度や取組の実施後は、毎月、半年、1年等、一定の期間が経過した後には、評価や見直しといった振り返りのプロセスを行う。



新たな制度導入や働き方の見直しに関しては、就業規則の規定見直しも必要になります。

不妊治療と仕事の両立に特化した制度だけではなく、社員のニーズに応じて柔軟に働ける制度を用意することも有効といえるでしょう。
 

両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)について



不妊治療と仕事の両立に資する職場環境の整備に取り組むとともに、不妊治療両立支援プランの策定及び同プランに基づく措置を実施し、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を利用させた中小企業事業主に対して「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」があります。

不妊治療のために利用可能な休暇制度・両立支援制度について、次の(1)~(6)のいずれか又は複数の制度について、利用しやすい環境整備に取り組み、不妊治療を行う労働者に休暇制度・両立支援制度を利用させた中小企業事業主が対象です。

(1)不妊治療のための休暇制度(特定目的・多目的とも可)

(2)所定外労働制限制度、

(3)時差出勤制度

(4)短時間勤務制度

(5)フレックスタイム制

(6)テレワーク



【支給要件】次の全ての条件を満たすことが必要です。

(1)不妊治療と仕事の両立のための社内ニーズ調査の実施

(2)整備した上記(1)~(6)の制度について、労働協約又は就業規則への規定及び周知

(3)不妊治療を行う労働者の相談に対応し、支援する「両立支援担当者」の選任

(4)「両立支援担当者」が不妊治療を行う労働者のために「不妊治療両立支援プラン」を策定


【支給額】次の要件を満たした場合、A、Bそれぞれが支給されます。

A「環境整備、休暇の取得等」
支給要件の全てを満たし、最初の労働者が、不妊治療のための休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用した場合

中小企業事業主 28.5万円<36万円>

B「長期休暇の加算」

上記Aを受給した事業主であって、労働者に不妊治療休暇制度を20日以上連続して取得させ、原職等に復帰させ3か月以上継続勤務させた場合

中小企業事業主 28.5万円<36万円> 1事業主当たり1年度に5人まで

< >内は生産性要件を満たした場合



男女問わず子供を持ちたいと願う方の希望を尊重し、職場の理解と支援を広げることは大切なことだと思います。ぜひ各職場での課題の一つとして、ご検討いただきたいと思います。



人事労務コンサルタント/社会保険労務士
佐佐木 由美子



※ この投稿内容は、発行日時点において明らかとなっている法律内容に基づき記載しています

参考出所:厚生労働省「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」、厚生労働省HP