コラム
新型コロナウイルス感染防止と労務管理
2020.02.28
●こんにちは、グレース・パートナーズの佐佐木由美子です。
新型コロナウイルスの感染拡大が新たな局面に入り、週明けの3月2日からは全国の小・中・高校が要請を受けて臨時休校となるなど、社会的な影響が大きくなっています。
企業においては経営へのインパクトは避けられず、当面の労務管理や資金繰りなど様々な課題が生じています。
今回は、こうした状況下で労務管理上における検討課題について取り上げてみます。
●通勤ラッシュによる感染リスクを避けるために、在宅勤務・テレワークを急遽実施するという企業も少なくありません。
もともとこうした働き方が定着している企業では大きな混乱はありませんが、これまで定時に出社するスタイルを取っていた職場では、テレワーク環境に加えて労働時間管理が課題となります。
管理監督者については、そもそも労働時間・休日・休憩は適用除外となりますので、オフィスで勤務する際と特段変わりはありません。深夜労働(22時~翌朝5時)は、健康面や深夜割増賃金の面からも、原則禁止とすべきでしょう。
一般従業員については、所定労働時間で働くことを原則とし、始業・終業時刻の報告を行うことになりますが、そのやり方は各社で勤怠システムを利用されるなど客観的な方法を極力検討したいところです。
在宅勤務に事業場外みなし労働制を用いて、所定労働時間働いたものとみなす場合は、次の2点に注意する必要があります(以下、厚生労働省の「テレワークガイドライン」より)。
1.情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
2.随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
つまり、チャットやメール、電話等で、即時レスポンスを求めたり、いちいち細かい指示出しをしたりするのはダメ、ということです。
「具体的な指示」には、業務の目的や目標、期限等の基本的事項を指示することや変更の指示は含まれないこととされています。ですから、常に上司の指示を受けて、業務を進めるようなスタッフには、事業場外みなしを用いることはできません。
なお、みなす時間については、所定労働時間とするのが一般的ですが、業務内容によって、「通常必要となる時間」とする場合は、労使協定により時間を取り決めておく必要があります。
●3月2日から小・中・高校が休校となると、そうしたお子さんを持つ従業員の方たちは、春休みも含めて1か月以上も仕事を休むことはさすがにできません。
こうした危機的な状況において、企業も休暇取得の奨励や一時的にでも在宅勤務を認めるなど、柔軟な対応が求められます。
年次有給休暇が1日単位での取得しか認められていない企業においては、半日単位や時間単位で取得できるようにすることをすぐにでも検討したいものです。
時間単位年休は、事業者側からすると管理が煩雑になるという声もありますが、時間単位年休が利用できると働きやすくなることは言うまでもありません。
たとえば、フレックス制の事業場では、コアタイムのみ働き、それ以外は時間単位年休を利用したり、子供の用事のために、労働時間の途中に中抜けをすることができたりします。
時間単位年休を導入する場合には、労使協定が必要となりますが、年5日の範囲内で時間単位年休の取得が可能になります。
●もうひとつ労務管理上で気になるのは、休業手当の問題ではないでしょうか。
厚労省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年2月25日時点版」では、「新型コロナウイルスに感染が疑われる方について、休業手当は必要か」との問いがあります。
これに対して。「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」にお問い合わせください。・・・中略・・・「帰国者・接触者相談センター」の結果を踏まえても、職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります」としています。
また、「労働者が発熱などの症状があるため自主的に休んでいる場合に、休業手当の支払いは必要か」の問いについては「通常の病欠と同様に扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられる」としています。
一方、「例えば熱が37.5度以上あることなど一定の症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、休業手当を支払う必要がある」としています。
Q&Aを見るかぎり、37.5度以上の発熱というのは一つの目安と読めますが、年次有給休暇も残っておらず、休業手当が一切出ない、また人手も足りない…となると、無理をしてでも勤務しようとする従業員が出てくる可能性は十分に考えられます。
こうした事態にあって、臨時的な特別の休業手当や、時効で失効した年次有給休暇を特例的に利用することを認めるなど、自主的に企業が柔軟な対応を取っていくことが、今求められているのではないでしょうか。でき得ることは、ためらわずに実施すべきでしょう。
●経済産業省は、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業者への支援策を発表しました。
売上高の減少の程度にかかわらず、今後の影響が見込まれる場合も含めての融資など、徹底的な資金繰り支援など打ち出しています。
概要はこちら
→ https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2019/pdf/yobihi_gaiyo_0214.pdf
また、厚生労働省は、「雇用調整助成金」の特例を発表しています。
この対象は、日本・中国間の人の往来の急減により影響を受ける事業主であって、中国(人)関係の売上高や客数、件数が全売上高等の一定割合(10%)以上である事業主が対象です。
→ https://www.mhlw.go.jp/content/000596026.pdf
予断を許さない状況が続きますが、この危機的状況を一人一人ができ得る対応を取りながら、乗り越えていきましょう。
人事労務コンサルタント/社会保険労務士
佐佐木 由美子