コラム

入社時の身元保証書、民法改正後の書式に注意

2021.03.18

●東京でもいよいよ桜が咲き出し、春を感じる今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。

4月は例年、入社者が多い時期。提出書類のチェックや手続きで、担当者の方は忙しく過ごしていると思います。

入社時の提出書類のひとつに、多くの会社で身元保証書の提出を求めています。

2020年4月以降は、民法が改正されていますが、きちんと対応した内容の身元保証書になっていますか。

これまでと同じ対応をしていたら、契約内容自体が無効になりかねません。

今一度、改正のポイントを確認しましょう。

●あなたの会社では、採用時に身元保証書の提出を求めているでしょうか?

身元保証書とは、入社する従業員の身元を確認するために、また、万が一会社に損害を与えた場合に保証人が賠償責任を負うことなどを約するための書類。提出自体を求めるかどうかは就業規則等の定めによって会社ごとに異なります。

2020年4月1日より、「民法の一部を改正する法律」が施行されたことにより、改正前までに使用していた社内書式をそのまま使用することがほぼできなくなりました。

変更点を一言でいえば、損害賠償における上限額を定める必要があるということ。

改正民法では、個人の保証人の保護を拡充する観点から、「根保証契約」に関しての極度額を定めなければならなくなりました。

「根保証契約」とはあまり聞きなれない言葉ですが、一定範囲にある不特定の主債務を現在だけでなく将来発生するものを含めて包括的に保証することを意味しています。

根保証契約の場合、保証人が想像もしなかったところで、予想外の債務負担を強いられる可能性があるといえるわけです。

そこで、保証人が法人でない個人の場合、損害賠償額については極度額(限度額)を定めなければ、その効力が生じないことに改正されました。

そのため、保証契約の締結時点において、確定的な金額を書面または電磁的記録にて定めておく必要があります。

この書き方はなかなか難しいといえるでしょう。極度額の上限が法律に定められているわけではありませんし、あまりにも高額な賠償額を設定すれば、躊躇して身元保証人を引き受けてくれる人がいない……という事態にもなりかねません。

ですから、会社側としても、何のために身元保証書を提出してもらう必要があるのか、基本に立ち返り改めて検討することは大切です。

たとえば、メンタルヘルス不全で心身ともに不安定な状態の従業員を引き受けてもらうための緊急連絡として身元保証人に連絡をしている…といった利用状況であれば、損害賠償を含めない形の書面にする方法もあります。

●なお、身元保証書の提出を義務付けている場合は、「身元保証に関する法律」に沿った運用を心掛けてください。

この法律のポイントは、以下のとおりです。

・身元保証契約の存続期間は、期間の定めのない場合は3年。期間の定めをした場合は最長で5年

・身元保証契約は自動更新できない。自動更新規定を設けても無効となる。

・本人に業務上不適任又は不誠実な行為で身元保証人がその責任を問われるおそれがある場合や、転勤などで監督が困難になる場合、使用者は身元保証人に通知する必要がある。またこうした事実を知って身元保証契約を解除することも可能。

・この法律に反して身元保証人に不利な特約をしても無効となる。

入社に際して、様々な書類の提出を求めているかと思いますが、それぞれの必要性や、適切な取り扱いがされているかどうかを含め、この機会に改めて確認いただければと思います。

 

人事労務コンサルタント/社会保険労務士
佐佐木 由美子

 

※ この投稿内容は、発行日時点において明らかとなっている法律内容に基づき記載しています