コラム
コロナで休業、年次有給休暇の付与はどうなる?
2020.09.25
新型コロナウイルス感染症による休業問題
2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響によって、休業せざるを得ない企業は多かったのではないでしょうか。
場合によっては、入社日から休業状態だった…ということもあるかもしれません。
こうした休業がある場合、年次有給休暇付与に際して、出勤率の算定をどう考えたらよいのでしょうか。
今回は、年次有給休暇付与における算定の基礎となる全労働日の考え方についてみていきましょう。
年次有給休暇を付与する条件
労働基準法第39条1項において、「使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」と規定されています。
さらに、その後1年ごとに、出勤率が8割以上の労働者に一定の日数を付与することが定められています。
この出勤率は、次のとおり算出します。
出勤率 = 出勤日数 ÷ 全労働日
要は、入社して6ヵ月後とその後1年ごとに、全労働日の出勤率が8割以上あれば、年次有給休暇を労働者に与える必要がある、ということですね。
ですから、新卒等で4月1日に入社した場合、通常であれば6ヵ月後の10月1日に10労働日付与されることになります。
これは法律に即した原則論であって、会社によっては入社日から付与していたり、一斉付与方式を採用していたり、方法はそれぞれ異なっていることでしょう。
ところが、今年は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言等も発出され、感染防止のために、多くの企業で一時的に社員を休業させたり、在宅勤務に切り替えたり…様々な対応を取らざるを得ませんでした。
4月はまるまる働いていない…という、新入社員もいます。
このように、全日休業するような場合、出勤率算定の「全労働日」に含まれるのでしょうか?
従前の行政解釈では、「使用者の責めに帰すべき休業日については、全労働日に参入されない」と解釈されていました(基発150号昭和63年3月14日)。
ところが、ある最高裁判決が出たことで、法39条関係(出勤率算定の基礎となる全労働日)の解釈が改められることとなりました。
ポイントは、以下のとおりです(基発0710第3号 平成25年7月10日)。
原則的な考え方
「労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日」は、出勤率の算定に当たっては、全労働日に含まれる。
(全労働日に含まれるケース)
・裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合
・労働委員による救済命令を受けて会社が解雇の取消しを行った場合の解雇日から復職日までの不就労日
など、労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日が考えられます。
例外
「労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日」であっても、次に掲げる日のように、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないものは、全労働日に含まれないものとする。
(全労働日に含まれないケース)
1) 不可抗力による休業日
2) 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
3) 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
全労働日の8割出勤を条件としているのは、労働者の勤怠の状況を勘案して、特に出勤率の低い者を除外する立法趣旨であることを踏まえたものです。
なお、年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の日数は、就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日をいい、各労働者の職種が異なることなどによって、異なることもあり得ます。
したがって、所定の休日に労働させた場合には、その日は、全労働日に含まれません。
新型コロナウイルスによる休業では
新型コロナウイルスによる休業については、労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日ですが、不可抗力による休業と考えられるため、全労働日/出勤日に含めずに、出勤率の算定を行うのが妥当です。
なお、遅刻や早退などで労働時間が短い場合においても、働いている限りは出勤日として取り扱います。
さらに、産休・育休中、介護休業の期間や業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日、年次有給休暇を取得した日は、出勤したもの取り扱うことになります。
アルバイトやパートタイマーについて、年次有給休暇の「付与日数」は所定労働日数・時間による比例付与となりますが、こうした基本的な考え方は同様です。
今年は様々なところで、コロナに関連するイレギュラーな対応が多く、労務管理も複雑化していますが、大切なところなのできちんとした対応を心掛けたいものです。
人事労務コンサルタント/社会保険労務士
佐佐木 由美子
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