コラム

時間外労働の上限規制と労働時間の考え方

2019.11.25

●こんにちは、グレース・パートナーズの佐佐木由美子です。

大企業では今年4月から労働基準法の改正により時間外労働の上限規制が適用されていますが、中小企業は2020年4月から適用されるようになります。

こうした運用をきちんと行っていくためには、日頃から労働時間管理を適正に行っていくことがポイントです。

そこで、今回は労働時間の考え方について取り上げてみます。

 

●労働基準法の改正点について、まず確認しておきましょう。

時間外労働の限度時間は、原則45時間、年360時間です。

ただし、臨時的な特別な事情がある場合は、年720時間、単月では休日労働を含めて100時間未満、複数月は平均80時間以内(休日労働含む)まで可能となります。

 

時間外労働と休日労働の違いを明確にして管理していくことも大事なことですが、そもそも「労働時間」とはどこまでの範囲を指すものなのでしょうか。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを言います。

 

使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。

 

【直行直帰・出張について】

よく質問を受けるのは、直行直帰や出張を伴う場合。直行で客先に行くようなとき、家から遠い場所で、普段会社に通勤するよりも、朝早く家を出なければならないようなことはあるかと思います。

たとえば、いつもより30分早く家を出るとしたら、その30分が労働時間として取り扱ってもらえるのか、という問題です。

こうした移動時間について、移動中に業務の指示を受けず、業務に従事することもなく、移動手段の指示も受けず、自由な利用が保障されているような場合は、労働時間に該当しません。

また、遠方に出張するため、休日である日曜日に、自宅から直接出張先に移動して前泊するような場合の移動時間についても、労働時間には該当しません。

 

【研修・教育訓練の取扱い】

会社は、社員のスキルや能力向上のために、様々な研修・教育訓練の機会を与えているかと思います。

これも、どこまでが労働時間になるのか、問題となることがあります。

各種研修について、業務上義務付けられていない自由参加のものであれば、その研修時間は、労働時間に該当しません。

たとえば、職場に外国人講師を呼んで開催している任意参加の英会話研修(業務と特段関連性はない)や、終業後に会社で弁当の提供はしているものの、参加の強制はなく、参加しないことに不利益な取り扱いもない勉強会の時間などは、労働時間には当たりません。

一方、会社から指定する社外研修を休日に参加するよう指示され、後日レポート提出も課される場合や、自分が担当する業務について、その研修を受けなければ業務に就くことができないようなものは、業務見学という名称であっても労働時間に該当します。

 

【就業時間前後の取扱い】

朝の通勤ラッシュを回避する目的などで、労働者が自発的に始業時刻よりも相当早く会社に到着しているケースもあろうかと思います。

最近は、朝活を推奨して朝食を会社で提供する企業なども出てきています。

フレックスタイム制などで、自分で始業時刻を決められる場合は、すぐに業務をスタートすることができますが、始業・終業時刻が決められている企業は、始業時刻から業務を始めるのが原則的な考え方です。

そうした場合、始業時刻までの間、業務に従事しておらず、業務の指示も受けていないような場合には、労働時間に該当しません。逆に、早出して業務を頼まれている場合は、当然ながら労働時間となります。

 

これらは一例ですが、社内でこれまで慣習的に行ってきたことなどあれば、この機会に整理し、きちんと労働時間管理ができるようにしておきたいものです。

 

人事労務コンサルタント/社会保険労務士

佐佐木 由美子

 

※この投稿は、掲載日時点において明らかになっている法律内容に基づき記載されています。